体験を「習慣」と「儀式」に分解してみる
2022.12.16
「体験を設計する」
ざっくりいうと弊社のやっている仕事というのはそういうことだと思います。自社の事業でもそうですし他社さんのお仕事です。
そんな「体験」なのですがこのままの表現では抽象的で使いものにならないことが多いです。
「この体験設計が…」とプレゼンしても他社さんはピンときません。
「体験をつくることが大切なんだよ」と言っても自社のスタッフと解像度が合いません。
そこで最近は、
体験→それは習慣なのか?儀式なのか?
というような分解をすることが多いです。
抽象的な「体験」という概念をちょっと具体的にイメージする感じです。今回のおはなしは上の分解をイメージして置いて読んでいただけるといいかもです。
「これ、やってみたらどう?」
と、さいきん弊社代表の前田に提案したことがあります。
それは、
◎お風呂にスマホを持って入らない
ということです。
スマホを持って入らずに浴室の電気を消して入浴するかんじです。
(脱衣場の灯りがきっと漏れてくるはずなので真っ暗にはならない)
いわゆる「闇風呂」です。
なぜ?
一日の中にじっくり考える、もしくは、何も考えずにぼーっとする、そんな時間を強制的につくるためです。言い方を変えると瞑想タイムみたいなものになるのかもしれません。
「自分ひとりで考える」っていうことがとても大切だと僕らの会社は考えています。
チームや組織で相談したり議論したりするのは当たり前なんですが、そもそも論で一人ひとりの思考力が高ければチーム全体の思考力が高くなるはずなんです。
前田に提案した闇風呂もその取り組みの一環です。
一人ひとりの思考力を高めるために瞑想するための時間をつくりましょうよ、という感じです。
これには僕自身の実体験というか振り返りがあります。
ここ6年7年くらい僕が続けている習慣?儀式?には「これは、やって良かったな」っていうのが幾つかあります。
その中の一つが、
◎朝5:00に一つ遠くの駅までを音楽も何も聴かずに歩く
という儀式です。時間にして15分くらいです。これを基本的には土日も関係なく365日ずっと続けています。大晦日もお正月もです。
自分の足音を聴きながら、前日に起こったことと、その日にすることと、これから先に起こるであろうことを、順番に考えていきます。
で、駅に着いたら駅のベンチでPCを開いて仕事開始。5:30になったら電車が到着するので続きは車内で。っていう感じです。
自分にとってはこの15分が瞑想タイムみたいになっていて。その後の作業の能率や品質がめちゃくちゃ上がるんですよね。
そんなことを考えていると、たまたま読んでいたWebマガジン『Every』に寄稿されていた論考記事が面白かったです。
皆さん「BeReal」っていうアプリはご存じですか?
BeRealっていうのは、
◉ユーザーは1日に1回しか写真を投稿できない(しかも2分間しか投稿できない)
◉アプリを開くと2分のタイマーがスタートし、ユーザーはいま何をしているにせよ、この時間内に写真を撮らなければならない
◉フィルターも加工も使えない、リアルな自分を投稿する
っていうアプリです。
例えば、、、
・皆さんがこの記事をシェアを読んでいるときに「ぴこーん」って通知が来る
↓
・2分間のタイマーがスタート
↓
・その間にフィルターも盛り加工もなしのリアルな写真を投稿する
↓
・2分経ったら投稿できなくなる
というような体験設計です。
なんじゃそりゃ(笑)って感じですよね。
ところが!
BeRealのダウンロード数は2022年の初めから315%伸びているんです。
「最もダウンロードされているソーシャルメディアのアプリ」ランキングでは現在、インスタグラム(Instagram)、スナップチャット(Snapchat)、ピンタレスト(Pinterest)に次いで4位に入っているんですよね。
今回の『Every』に寄稿されていた内容はそのBeRealみたいなアプリサービスをイメージしていただけると分かりやすかもです^ ^
結論から言いますと、、、
◎新しい時代のソーシャルアプリにはHabit(習慣)ではなくRitual(儀式)を作り出すことが必要
という感じです。
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●Twitter、TikTokに代表される既存の巨大SNSはHabitual Social(習慣化ソーシャル)アプリと呼ぶことができる。それらは「無限スクロール」という言葉に象徴されるようにユーザーの悪い癖を利用してアプリの滞在時間を伸ばすことを目的とする。
●一方で、BeRealやWordleなどの新しいサービスは無意識的に習慣を促すのではなく、日常のなかでより意識的になれる儀式的な体験を提供しているのではないか、とこの記事の著者のアヌ・アルテュルは書いている。
●起業家・エンジェル投資家のアルテュルは、これまでソーシャルアプリの世界では、儀式は機能や参入戦略のひとつとしか考えられていなかったが、今後は習慣ではなく、儀式がソーシャルアプリのコアになることが増えるのではないかと考えている。
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この論考を書いたアルテュルが起業家でエンジェル投資家っていうのが興味深いなあ、と思います。
BeRealとは「Ritual(儀式)」アプリである。ということですね。
現場の感覚に近い。
この記事では、ユーザーにかかるEnergy(労力)とConsciousness(意識)で2軸をとったシンプルな図でHabit(癖・習慣)、Routine(ルーチン)、Ritual(儀式)の違いが説明されています。
で、
◎儀式はルーチンや習慣よりも意識的で参加型で情緒的な価値や意味があり、有限である
と書かれています。
簡単に説明すると、、、
要は、TikTokとかインスタのリールとかって中毒性はあるけど、ユーザーはこっちに参加もしてこないしこちらのファンにもなってくれないでしょ(=情緒的にならない)っていうことです。
これは僕らの現場感覚とも一致しています。
僕らもインスタのリールで10,000再生くらいする動画はいくつも作れましたが、それがユーザーが僕らの事業ファンにつながったか?ユーザーの意識的な行動につながったか?っていうと、、、
正直な話、どのKPIを見ても「NOだよね」っていう結論にならざるを得ない。
この記事では、
・儀式的ソーシャルアプリの事例として毎日1回3分以内の音声アップデートを友達に送れるCappuccino
・友達と1週間に1回1分間のキャッチアップをすることのできるLobby
なども紹介されています。
この記事に書いていることや記事の中で使われいるマトリクス表示は参考になりますので、ぜひぜひ原文を読んでいただきたいです。
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お客様=エンドユーザーは「儀式」を欲しがっているのだと思います。
例えば僕が前田に、
「電気を消してお風呂に入るルールにしよう」
と提案したように、自分の内面を探索し深化させるような「儀式」の提案を待っているのだと思っています。
ならば僕たちサービスを提供するものは「これが僕らの儀式なんですよ!」と断言できるだけ、強くなければいけないと思います。
この記事には、
『プロダクトやサービスの中の制約や特異性が、儀式や新たな創造性を生み出す仕組みをつくる』
という主張が書かれています。
大いに、納得です。
体験→それは習慣なのか?儀式なのか?
つまり、、、
ざっくり「体験」を作りましょう、ではダメで。それが習慣なのか?儀式なのか?設計する側が明確に意識をする必要があるように思っています。
いま作ろうとしているのは習慣なのか?儀式なのか?というイメージ。
・習慣アプリ=Tiktokやリール
→ユーザーに粘着はすれど、その粘着は熱心なファンから遠い
・儀式アプリ=BeRealやWordle
→ユーザーに粘着をして、その粘着は熱心なファンに近い
デジタルサービスを通じて儀式をつくりだすことは単に習慣化を促進することよりも難しいと思います。
ただ、ユーザーの滞在時間や注目だけを集めることだけが目的ではない世界観をまとったサービスが増えるのは良いことだと思うし、自分たちもそうありたいと思います。
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この記事を書いた人
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株式会社MEETSHOPの取締役。得意なことは整理整頓と言語化。